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静岡地方裁判所 昭和48年(ワ)340号 判決 1974年5月31日

原告

津島留太郎

ほか六名

被告

静岡鉄道株式会社

ほか一名

主文

被告等は連帯して原告津島留太郎に対し金四万円及びこれに対する昭和四九年六月一日から、原告靖に対し金四八万八、六七一円及び内金四四万三、四七一円に対する昭和四八年一〇月一六日から、内金四万円に対する昭和四九年六月一日から、原告鈴木静枝、同山田芳子、同井出タツ子、同津島昭治及び同杉山幸子に対し各金一四万九、九三三円及び内金一二万九、九三三円に対する昭和四八年一〇月一六日から、内金二万円に対する昭和四九年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

被告等は各自原告留太郎に対し五六万五、四四八円、原告昭治、静枝、芳子、靖、タツ子及び幸代に対し各二二万円及びこれに対する昭和四八年一〇月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。との判決並びに仮執行宣言

二  被告等

原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。との判決

第二当事者の主張とこれに対する答弁

一  請求原因

(一)  本件交通事故

訴外長田欣一は被告長田所有の山梨五五す四三六七号普通乗用自動車(以下被告車という)を運転して昭和四七年四月二九日午後七時五〇分頃静岡市稲川三丁目一二番地路上を丸子方面に向い西進中、前方注視義務を怠つた過失により同所附近の横断歩道を北から南に向つて歩行横断中の亡津島きみ(以下亡きみという)に被告車を衝突させて同訴外人をはねとばし頭蓋内出血、頭蓋底骨折等の重傷を負わせ、よつて昭和四八年五月四日大石外科医院において死亡せしめた。

(二)  責任原因

被告長田は被告車を所有し、これを自己の運行の用に供していたもので、欣一は同被告より被告車を借受け後記のとおり被告静岡鉄道株式会社(以下被告会社という)の小鹿営業所から自己が居住している被告会社の丸子寮(静岡市丸子七〇七ノ三に所在する従業員宿舎)に帰宅途中本件事故を引起したのであるから、被告長田は自賠法三条により右事故により原告等が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

又被告会社はその従業員である運転手が従業員宿舎から勤務先の各営業所への出勤及び帰宅に自家用車を利用することを認容していたところ、欣一は被告会社に運転手として雇傭され、前記のとおり被告車を丸子寮から小鹿営業所への通勤に継続的に使用し、被告会社も欣一をして被告車を通勤用に運転させることにより被告会社のバス運行業務に従事せしめていたのであるから、本件交通事故は被告会社の業務執行について生じたものというべきである。

よつて被告会社は、民法七一五条、七〇九条に基き本件事故により原告等が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(三)  損害

(1) 原告等の慰藉料合計四〇〇万円

亡きみは死亡当時七六歳とはいえ視聴感覚、四肢等健全で、日課として家の中の掃除、植木の手入れ、針仕事をしていた位極めて健康であつた。他人の世話が好きで近所のクラブのリーダーをしたり、冬の夜警を進んでやつたりしていたので、近所の人から感謝されていた。家庭においては、夫、息子夫婦、孫二人に囲まれ極めて幸福な生活を送つていた。このような亡きみに対し、原告等は一日でも長生きしてくれるよう心より念願していただけに、きみの急死により蒙つた精神的苦痛は大である。よつて、原告らに対する慰藉料は、夫留太郎に一〇〇万円、子六人に各五〇万円をもつて相当と思料する。

(2) 入院治療費 九万三、五三八円

原告靖は別紙明細表一記載の通り、亡きみの入院治療費を支出し、同額の損害を受けた。

(3) 葬式、初七日、四九日各費用 一〇八万三、五一〇円

原告靖は、別紙明細表二記載の通り、亡きみの葬式、初七日、四九日各費用を支出し、同額の損害をうけた。

(4) ところで原告等は本件事故に基づき自賠保険金として三三九万六、八〇〇円並びに訴外欣一より五万四、八〇〇円、計三四五万一、六〇〇円を受領したので、前記(2)(3)の各損害の全額(計金一一七万七、〇四八円)に、且つ(1)の損害のうち、原告留太郎の損害に四七万四、五五二円を原告靖、同昭治、同タツ子、同静枝、同幸代、同芳子の各損害に各三〇万円を各充当し損害を一部填補した。

(5) 弁護士費用 一六万円

原告等は、被告らが本件事故による損害の賠償につき誠意を示さないので、やむなく静岡弁護士会所属弁護士勝山国太郎に本訴の追行を委任し、同人に対し着手金、謝金各八万円合計一六万円(原告津島留太郎が四万円、原告津島靖、同津島昭治、同井出タツ子、同鈴木静枝、同杉山幸代、同山田芳子が各二万円)を支払う旨約した。

(四)  結論

よつて被告等は各自原告留太郎に対し五六万五、四四八円、原告靖、同昭治、同タツ子、同静技、同幸代、同芳子に対し各二二万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四八年一〇月一六日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告等の答弁並びに主張。

(一)  被告長田

請求原因第一、二項は認める。第三項は不知、第四項のうち本件交通事故に対する損害を填補するため自賠保険金三三九万六、八〇〇円が原告等に支給され、且つ欣一が五万四、八〇〇円を支払つたことは認めるもその余は争う。

(二)  被告会社

請求原因第一項のうち原告等主張の日時場所で欣一運転の被告車が亡きみに衝突し、同訴外人を死に至らしめたことは認めるもその余は不知。第二項のうち欣一が被告会社のバスの運転手として勤務していたことは認めるも、同訴外人が被告車を通勤に継続的に使用し、被告会社も右欣一をして被告車を通勤用に運転させることにより、被告会社のバス運行業務に従事せしめていたことは否認する。第三項は不知、第四項のうち本件交通事故に対する損害を填補するため自賠保険金三三九万六、八〇〇円が原告等に支給され、且つ、欣一が五万四、八〇〇円を支払つたことは認めるも、その余は争う。

本件交通事故は欣一が勤務をすべて終つた後自家用車(被告車)で寮に帰る途中起つたものであり、欣一の勤務は自家用車による通勤を必要とするものではなく、被告会社は被告車を被告会社の事業の執行に関し継続的に利用したことなく、又欣一に対し被告車で通勤することを奨励したこともないから本件交通事故は民法七一五条一項にいう被告会社の「事業の執行に付き」生じたものとは言えない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  本件交通事故

請求原因第一項の事実は原告等被告長田の間で争いがない。

〔証拠略〕を総合すると右事業が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

二  責任原因

原告等と被告長田の間では同被告が被告車を所有しこれを自己の運行の用に供していたことは争いがないから同被告は自賠法三条により本件交通事故により原告等に蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

原告等被告会社の間で次の事実は争いがない。

被告車は被告会社に運転手として雇傭されている欣一が通勤用に使用している自家用車であること、本件事故は欣一が勤務を終え被告会社の小鹿営業所から自己が居住している被告会社の従業員宿舎丸子寮に帰る途中発生したものであること。

右事実に〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められる。

欣一は昭和四七年一月頃被告会社にバスの運転手として採用され、試用期間を経て同年三月一六日正式社員となり小鹿営業所に配属され、バスの運転業務に従事していること、欣一が居住している静岡市丸子七〇七の三に所在する丸子寮は、被告会社に勤務するバス運転手等約三〇人が起居しており同所から小鹿営業所までは約五キロあるので、同営業所に通勤する従業員の始んどは自家用車で通勤しているが、被告会社もこれを認容し、丸子寮には自家用専用の車庫を設置し、小鹿営業所の営業用車庫の一部に通勤用自家用車の駐車場を置き、同営業所の従業員中九割の約七〇人は自家用車で通勤していた。被告会社はバス乗務員に対して通勤費は支給していなかつたが、被告会社の営業車を使用して通勤するよう一応指導し、乗務の都合でバスの営業時間外に出退勤する従業員のために各営業所に仮泊設備をもうけていたが、一般に利用されず、バス乗務員の始んどは自家用車で通勤していたが、被告会社はこれら従業員に対し特にタクシー代、自家用車のガソリン代等を支給していなかつた。欣一は小鹿営業所に配属された昭和四八年三月一六日から被告車で通勤していたが、小鹿営業所の上司はこれを認容していた。

以上認定事実に反する証拠はない。

右事実によれば本件交通事故は社員の運転する自家用車の退勤途中の事故ではあるが、欣一はバスの運転業務に従事しており、その出退勤が勤務の都合で路線バスの営業時間外にわたるときは通勤手段として自家用車を必要する場合があつたところ、被告会社は右の事実を知りながら欣一を含む小鹿営業所の従業員の自家用車通勤に便宜をはかるため営業用車庫の一部に自家用車の駐車場を設置してた右事実によれば被告車は被告会社の事業の執行に関しある程度継続的に利用され、被告会社もこれを認容していたものと認めるの相当であるところ本件交通事故が退勤途中に発生したとしても外形的には被告車の運転を被告会社の業務執行と区別をすることができないから、本件交通事故は被告の業務執行につき発生したものと認めるのが相当である。

よつて被告会社は民法七一五条、七〇九条により本件事故により原告等が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(一)  慰藉料

〔証拠略〕を総合すると、きみは本件交通事故に遭遇した当時七六歳の老令であつたが、長男原告靖夫婦とその子供及び夫原告留太郎の六人で同居し、血圧は高かつたものゝ健康で、幸福な晩年を約束されていたが、不慮の死にあいその夫原告留太郎、及びその子原告靖、昭治、静枝、芳子、タツ子及び幸代は激しい精神的打撃を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実に第一項認定の本件交通事故の態様、特に亡きみが頭蓋底骨折等の重症を負い六日間苦しんだあげく死亡したことその他諸般の事情を総合すると、きみの夫原告留太郎の慰藉料は一〇〇万円、その他の原告等の慰藉料は各五〇万円が相当である。

(二)  入院治療費

〔証拠略〕を総合すると原告靖は亡きみの入院治療費として五万四、八〇〇円、入院中の雑費として別紙明細表第一記載のとおり二万六、七三八円を支出し、亡きみに六日間日夜交替で附添看護に当つた原告タツ子及び原告静枝に対し附添費として各六、〇〇〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  葬式、初七日及び四九日の費用

〔証拠略〕を総合すると原告靖は亡きみの葬式、初七日及び四九日の費用として別紙明細表二記載のとおり一〇八万三、五一〇円を支出したことが認められるが、前記認定の亡きみの年令、地位その他諸般の事情を総合するとそのうち四〇万円が亡きみの葬儀費用等として社会的に相当なものと認められ、右を超える部分は本件交通事故と相当因果関係にあるものとは認められない。

よつて被告等は連帯して原告靖に対し右葬儀費用等として四〇万円を支払う義務がある。

(四)  自賠保険金の支払と充当関係

本件交通事故に対する損害と填補するため自賠保険金三三九万六、八〇〇円が亡きみの相続人である原告等に支給されたこと及び欣一が五万四、八〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば右自賠保険支給金額のうち五万四、八〇〇円は亡きみの応急手当費及び診療費として、内六、〇〇〇円は看護料として、内六、〇〇〇円は亡きみの入院中の慰藉料として、残りの三三三万円は死亡による損害として支払われたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。よつて右自賠保険金を右指定に従つて原告等の前記損害賠償債権に充当すると、次のとおりになる。

原告留太郎の前記(一)の慰藉料額に対し全額の一〇〇万円を充当。

原告靖の前記(一)の五〇万円、前記(二)の九万三、五三八円、前記(三)の四〇万円の合計九九三、五三八円に対し四九万〇、〇六七円を充当その他の原告の前記(一)の各五〇万円に対し各三七万〇〇、六七円を充当するのが相当である。又欣一が支払つた前記五万四、八〇〇円はその性質上原告靖の前記(三)の葬式費用に充当するのが妥当である。

(五)  弁護士費用

原告等が本訴の追行を静岡弁護士会所属弁護士勝山国太郎に委任したことは本件記録上明らかであり、〔証拠略〕を総合すると、同弁護士に対し弁護士費用として原告留太郎は四万円、その他の原告は各二万円を支払う旨を約していることが認められる。右事実に前記認定の諸般の事情を総合すると同弁護士に対する弁護士費用は原告留太郎及び靖各四万円、その他の原告は各二万円が相当である。

四  結論

以上の次第で本訴請求は、原告留太郎が四万円及びこれに対する本訴判決言渡の翌日である昭和四九年六月一日から原告靖が四八万八、六七一円及び内四四万三、四七一円に対する本訴送達の翌日であること記録上明らかである昭和四八年一〇月一六日から、内四万円に対する右昭和四九年六月一日から原告昭治、静枝、芳子、タツ子及び幸代が各一四万九、九三三円及び内一二万九、九三三円に対する昭和四八年一〇月一六日から、内二万円に対する右昭和四九年六月一日から各支払済まで民法所定年五分の遅延損害金を被告等が遅滞して支払うことを求める限度で理由があり、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 元吉麗子)

別紙明細表一

診療費 五四、八〇〇円

岡村商店 バケツ・ビニール・ケツトル他 二、六五〇円

斎藤布団店 寝具他、一二、九五四円

小幡薬店 オムツカバー・紙オムツ・シツカロール他 三、〇八〇円

八木薬局 消毒液他 一、七六〇円

栗田商店 一、二〇〇円

すずらん ネル布地 一、二五〇円

松越 洗剤 二四五円

ダイイチ ペーパータオル他 五三九円

増田文具 六〇円

附添費用 六日間 一二、〇〇〇円

雑費 三、〇〇〇円

合計 九三、五三八円

別紙明細表二

(一) 葬式費用 金額

田辺商店 ドライアイス 一、八〇〇

朝霧 花代 七〇〇

高田商店 菓子 四、五〇〇

長谷川文具店 香典袋・ボールペン 二六〇

山王寺 布施他 二五〇、〇〇〇

小沢屋 二三、一〇〇

みすず酒店 清酒他 一五、八四〇

玉寿し 八〇、五〇〇

東海軒 火葬費弁当代 二四、〇〇〇

小長井仏具店 仏具他 二四九、九六五

筒井葬具店 葬具他 七五、〇〇〇

墓標 一、六〇〇

塩原洋品店 八一、三〇〇

野口呉服店 二、〇〇〇

田中屋伊勢丹 四一、四〇〇

栗田商店 四八、三五〇

電話及電報 一〇、〇〇〇

かぎ屋 四五、六〇〇

火葬場費用 一〇、〇〇〇

車代 三〇、九五〇

雑費 三、〇〇〇

(一) 小計 九九九、八六五

(二) 初七日、四九日費用

山王寺 一五、〇〇〇

〃 茶菓代 一、〇〇〇

栗田商店 九、〇〇〇

露物産 九、〇〇〇

松風寿し 三六、五〇〇

清酒・砂糖他 八、三九五

コーラ・フアンタ他 七五〇

花代他 四、〇〇〇

(二) 小計 八三、六四五

(一)、(二)合計 一、〇八三、五一〇

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